仕事人

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岩手県に関連のある仕事人
1947年 生まれ 出身地 岩手県
よろず ゆたか
子供の頃の夢:
クラブ活動(中学校): 軟式野球部,バレーボール部
仕事内容
漁船に乗っていそにすむアワビやウニなどをとるいそりょう,ホタテガイとワカメのようしょくぎょう,小型ていあみりょうなどの漁業。
自己紹介
しゅは仕事というくらい,海や漁業が好きです。他に楽しみといえば孫たちの成長です。どうきょする高校生のまごむすめと夕食のときにおしゃべりするのが,今は一番の楽しみです。
出身高校
文化学院(通信制)

※このページに書いてある内容は取材日(2019年07月21日)時点のものです

さんりくゆたかな海で

三陸の豊かな海で

わたしいわけん南部のかまいしりょうをしています。小さな漁船に乗ってアワビやウニ,ナマコなどをとるいそりょう,ホタテガイとワカメのようしょくぎょう,それから小型のていあみりょうもしています。
かまいし沿えんがんは入り組んだリアス海岸で,岩場が続いています。岩場にはかいそうしげるので,かいそうを食べるアワビやウニのよい漁場になっています。アワビやウニにも種類があり,かまいしでとれるのは,ほっぽうけいのエゾアワビ,キタムラサキウニとエゾバフンウニです。
いわからみやにかけてのさんりく沿えんがんでは,ようしょくぎょうもさかんです。おだやかで水深のあるリアス海岸のわんは,ようしょく向きなんです。とくにワカメはにくあつで風味がよく,「さんりくワカメ」の名で知られています。
ホタテガイとワカメのようしょくでは,魚やエビなどのようしょくちがい,えさをあたえません。ホタテガイは,海中のプランクトンを食べるんです。また,ワカメは日光を浴びて光合成をし,海水にふくまれる栄養分をきゅうしゅうして成長します。かまいしの海は,栄養たっぷりのゆたかな海なんです。
ていあみは,6月から10月ごろまでの季節的な漁です。魚が中に入ったら出られないこうぞうあみを海の中に固定して,魚が入るのを待ち受けます。1,2日おきにあみを上げて中の魚をぎょかくします。アジ,タナゴ,チダイ,ブリのようぎょ,イカなどいろいろな種類の魚がとれて,楽しいですよ。20年ぐらい前までは,秋になるとサケがよく入ってまとまったしゅうにゅうになりましたが,最近はあまりとれなくなりました。
かまいしりょうはほとんどが家族けいえいで,わたしつまむすの3人で仕事をしています。ようしょくの仕事の節目やウニの加工など,人手が必要なときには,しんせきや知人にアルバイトをたのむこともあります。

生き物相手のようしょくは心をめて

生き物相手の養殖は心を込めて

しゅうにゅうの多くをめているのは,ようしょくぎょうです。ワカメは,秋に芽がついたたねいとを5cmほどに切って太いロープにはさみ,きをつけて海面にかべます。ワカメは3,4か月で2m以上にびるので,成長にしたがって間引きをしたり,重くなるのでしずまないようきをやして,光合成のために日光が当たるようにしたり,こまめに世話をしてあげます。しゅうかくは,3月じょうじゅんから5月じょうじゅんごろです。
ホタテガイのようしょくについては,ほっかいどうたるからがいせています。ネットのカゴにがいを入れて海中にるし,からはばが7cmぐらいになるまで育てます。これをいったん海から上げて,1まいずつかいがらあなをあけてピンを通し,ロープにちょくせつ固定して,また海にしずめます。この作業は「みみり」といって,人手をたのんで集中的に行います。こうやってがいから育てるとしゅっまでに3年かかるので,へいこうして7cmまで育ったはんせいがいほっかいどうから仕入れ,1年だけ育ててしゅっすることもしています。はんせいがいは高いのでえきうすいですが,早くお金にできますし,がいの病気などのリスクを分散するメリットもあります。
ホタテガイには,えさはあたえませんが,ときどき漁具やからそうをしてあげます。きなどの漁具やホタテガイのからには他の貝やホヤなどの生き物がつきます。ホタテガイの食べ物を横取りされないように,そうをするんです。またワカメと同じように,成長に合わせてきの調整も必要です。
ようしょくは生き物が相手ですから,思いやる気持ちが大切なんですよ。毎日見回ってじょうたいをよく観察して,何をしてあげたらいいのか考え,こまめに手をかけてあげます。この気持ちをなおざりにすると,いいものは育たないんです。

きびしいルールで持続のうな漁を

厳しいルールで持続可能な漁を

さまざまな漁の中で,いそりょうについてはとくにきびしくルールが決められています。アワビやウニはばやげられず,育つのに何年もかかります。せんすいなどでもぐってこうりつてきにとると,あっという間にとりつくしてしまいます。そこで,県やいきの漁業協同組合がそれぞれ漁法や漁期などのルールを決めて,げんを守っているんです。
かまいしではせんすいではなく,漁船の上から漁をします。漁法と漁具は,昔からあまり変わっていません。まず,木箱の底にガラスをはめた「箱めがね」,かまいしでは「かがみ」とびますが,これを海にかべます。かがみを通すと海の中がはっきり見えるんです。船のへりにひざしつけてちゅうごしになり,かがみから海中をのぞき,竿さおの先につけた漁具でアワビやウニをとります。
竿さおは1本が3mで,水深に合わせて最長で4本半つなぎます。昔は竹の竿さおでしたが,今はじょうで軽いカーボンせいです。竿さおの先には「すね」という50cmぐらいの板をつけ,その先にアワビ漁ではフックじょうの鉄のカギ,ウニ漁では小さなタモあみをくくりつけます。「すね」は,ねばづよくしなうのがとくちょうで,ものをひっかけるみょうな動きができるんです。昔は竹をけずって作りましたが,今はこれもプラスチックせいです。アワビ漁では,カギの先をアワビのからはしに引っかけて岩からはがします。ウニはタモあみわくで岩からはがし,タモあみの中にすくい入れていきます。
漁の日数と時間も決められています。アワビ漁は11~12月の間にわずか7回です。1回の漁は3時間ほどなので,時間との勝負ですね。ウニの漁期は4月末から8月じゅんで,全部で30回ぐらいですかね。ウニ漁は時間だけでなく,とる量もカゴ1ぱいと決められているんです。さらにアワビもウニも,とっていいサイズのそくがあります。はんにはばっそくがあり,そこまできびしくしてげんを守っているんですね。
アワビはぎょかくしたらそのまま漁協のしゅうじょに持っていきますが,ウニは身をむいてしゅっします。ウニは生で食べる食品なので,めっきん海水を使うなどえいせい管理の決まりも多く,気をつかいます。

いそりょうは目とかんけいけん

磯漁は目と勘と経験

アワビとりはいっしゅんの勝負です。いったんからにさわると,アワビはけんを感じて岩にいつき,はがせなくなります。また,アワビの身をきずつけないよう,岩からはがすときにカギをかけるからの位置が決まっています。しおの力にえて竿さおあやつり,からの一点にせいかくにカギをじゅつは,けずぎらいのりょうこんじょうきたえてきたように思います。
アワビを多くとるには,じゅつだけでなく,まず目がよくなければいけません。りょくだけでなく,アワビを見つける目が大事です。アワビのからにはかいそうなどがついていて,岩そっくりです。しかも海面から何mもの深さです。目やかんがいいと,からのわずかなとくちょうにピンときて,アワビの姿すがたが見えてきます。見えにくい岩の側面にいるアワビや,他のりょうのがしたアワビもかくじつにとるのが名人です。名人になるには,しつだけでなくけいけんと努力も必要ですね。
場所選びも大事なポイントです。これはけいけんが大きくものをいいます。アワビにはなわりがあるらしく,年を重ねた大きなアワビがいる場所,わかくて小さいのが多い場所,さらにアワビがまったくいない場所もあるんですよ。けいけんを積んで「あそこの岩のあの部分に毎年大きなアワビがいるな」というおくちくせきすると,だんだんぎょかくりょうがあがっていきます。わたしの頭の中には,そういう場所が何十か所も入っています。
ウニ漁はわたし1人で行きますが,アワビ漁はつまあいいっしょです。わたしが水中をのぞきながらすると,あいきざみに船を動かしてくれます。今は電動の小さなプロペラを使って1人でも漁ができますが,とったアワビのサイズがとっていいサイズかどうかかくにんしてくれる人がいると,わたしは漁に集中できます。あいはおよめに来てからかいをこぐ練習をして,もう50年近くがんばってくれています。照れくさいから口では言いませんが,本当にかんしゃしています。

自然にさからわず,うまくつきあう

自然にさからわず,うまくつきあう

漁業は自然が相手なので,なかなか人間の思いどおりにはなりません。ホタテガイのようしょくでも,病気などが発生して貝がたくさん死んでしまうこともあります。海のかんきょうの変化も,りょうにはかいけつできない問題です。海のおんだんやさまざまなげんいんから,かいそうが消える「いそけ」というげんしょうが全国で起きています。かいそうがないとアワビやウニが育ちません。かまいしでもいそけは起きていて,わたしわかいころは1回のアワビ漁で100kg近くとれたんですが,今はせいぜいその3分の1くらいです。人工的に育てたアワビのがいウニを漁協が買って放流していますが,かいそうしげらないと根本的なかいけつにはならないですね。
わたしけいけんした自然のさいがいでとくに大きかったのは,やはり2011年のひがしほんだいしんさいです。わたしが住むくわはまにも10m以上のなみせて,漁船や漁具倉庫などがすべて流され,大切に育てていた海の中のホタテガイもワカメもぜんめつでした。
家屋も,集落47けんのうち45けんがいを受け,道路がすんだんされて1週間ぐらいりつしました。わたしの家は集落の一番おくにあって無事だったんです。だから集落のなんじょとして使ってもらい,さいした集落の人たちが7月末までまりしていました。
漁業は,ようしょくがいもあったのでマイナスからのやり直し。りょうをやめて内陸にした人もいます。うちはむすりょうだし,わたしにとって漁業は生きがいでもあるので,少し無理もしましたがさいかいさせました。くわはまでホタテガイをようしょくする家は25けんから7けんりましたが,はげまし合ってがんっています。
今,くわはまの集落は25けんぐらい。漁港には高さ14.5mのぼうちょうていができ,集落内を整地した高台に家々がさいけんされました。自然にはさからえません。さからわず上手につきあって,海から大きなめぐみをいただく,これがかえなみにあってきたさんりくりょうの生きる道なのだと改めて思いました。

努力の分だけむくわれる

努力の分だけ報われる

漁業のやりがいというのは,努力した分だけ見返りがあることでしょうね。いそりょうようしょくも,楽をしていたらそれなりの結果しか出ません。人がこれくらい努力するなら,自分はる間をしんでそれ以上に努力をする,そんなみで働いてきました。
ホタテガイのようしょくでは,同じがいを仕入れても,人よりちょっとでも大きくてひんしつのいいものをしゅっしたいという思いがあります。手をかけていいものができたときは,何ともいえない満足感がありますね。もちろん,ひんしつがよければかくむくわれますし。
わたしは,海や漁業がとにかく好きなんです。毎日夜明け前に起きて,海を見に行きます。船を出して見回ることもあります。朝の海は気持ちいいですよ。海はわたしの人生の一部です。

10さいでアワビ漁のかせぎ手に

10歳でアワビ漁の稼ぎ手に

わたしの父もりょうでしたが,目が悪くていそりょうができませんでした。そこで,長男のわたしが10さいでアワビ漁を始めました。母のアイデアで事前に練習をしたんですよ。家ののきしたすいそうにアワビのからを入れて,2階のまどからカギで引っかけるんです。漁の当日には,両親と3人で小さなもくぞうの船に乗って,両親が船をあやつりながら見守ってくれました。アワビは大きなしゅうにゅうになるので,家族みんなが必死でした。
中学を卒業すると,りょうになりました。本当は高校に行きたかったんですが,父が病気がちだったので,わたしかせぐほかなかったんです。せめてもの思いでつうしんせいの高校で勉強して,高校の卒業しょうしょは手に入れました。
りょうになり,知り合いのイカり漁船に乗ったんですが,おきあいの海はうねりが強く,思いがけずひどくふないして苦しみました。仕方ないので18さいで車のめんきょ,20さいで大型車のめんきょをとって,ミキサー車の運転手になりました。ただ,アワビ漁のある日には海に出て,20さいごろからはつとめながらワカメのようしょくもやっていましたね。運転手の月給はへいきんよりよかったんですが,父が入院したこともあって足りない。りょうなら自分の努力しだいでサラリーマンよりかせげると思って,海の仕事にもどることにしました。
ちょうどホタテガイようしょくが始まっていたのが幸いでした。おきあいちがって,沿えんがんの漁業ならふないしませんでしたから。ただ,ホタテガイようしょくも最初のうちはりゅうで,わたしも周りのりょうも失敗続きだったんです。そこで「本場でようしょくの方法を教えてもらおう」と,仲間をさそって車でほっかいどうに行ってみました。たずねる先の当てはなかったんですが,たまたま親切なりょうに出会えたんですね。その人が海の中にるす方法や漁具,育てる水深などをくわしく教えてくれたんです。そのおかげで,失敗することがなくなりました。考えてみると,わたしりょう生活は,チャレンジせいしんだけでここまできたようなものですね。

「おたがいさま」の助け合いを大切に

「お互いさま」の助け合いを大切に

みなさんには,何ごとも自分の頭で考え,失敗をおそれずちょうせんしてほしいと思いますね。自分で考えてちょうせんしたことなら,失敗だっていいけいけんになります。失敗から学んだことを,次のちょうせんにいかせばいいんですから。ちょうせんするには,自分を信じることも大切です。自分の頭で考えたことに自信を持って,人生を切り開いてほしいと思います。
もうひとつ,助け合うことの大切さも,みなさんにお伝えしたいです。ひがしほんだいしんさいでのなみさいがいは本当にきつかったですが,集落の人やりょうの仲間たちと助け合って,何とか生活も漁業も立て直すことができました。わたしたくなんじょにしたことでかんしゃじょうもいただきましたが,「おたがいさま」なんです。うちでは以前,家族の病気が重なって,しんせきにも集落の人たちにもすっかりお世話になりました。おたがいさまという心で,人にくすこと,相手を思いやることを大切にして,生きていってほしいと思います。

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取材・原稿作成:大浦 佳代/協力:公益財団法人 日本財団,NPO法人 共存の森ネットワーク